日本各地には、季節の変化を表す独特な言葉が存在します。
これらの言葉は、地域によって異なることがよくあります。
例えば、北海道独自の言葉「リラ冷え」は、地域色豊かな表現の一つです。
本州では、「春一番」や「木枯らし一号」などの言葉がよく使われますが、
北海道では「リラ冷え」という独特の言葉があります。
この「冷え」という言葉が含まれているため、
寒さを連想させる表現だと思われますが、具体的な意味は何でしょうか?
今回は、以下の点に焦点を当てて解説していきます。
- リラ冷えとはどのような意味なのか
- リラ冷えの語源について
- リラ冷えは北海道独特のものなのか、それとも他地域でも使われているのか
北海道の文化を理解するためにも、
これらの点を詳しく見ていきましょう。
リラ冷えという現象について
5月から6月の寒さ
「リラ冷え」とは、北海道特有の気候現象を表す言葉です。
具体的には、5月中旬から下旬、場合によっては6月初旬にかけて、
暖かくなるはずの時期に突然気温が下がることを指します。
この時期の北海道では、桜の季節が終わり、
日中の気温が20度近辺まで上昇することが一般的です。
それが暖かな春の訪れを感じさせる時期です。
しかし、この時期には油断が禁物です。
時には日中であっても気温が10度に達しない日があり、
雨が降ることもあれば、晴れていても肌寒さを感じることもあります。
このような一時的な寒さのことを、
北海道の人々は「リラ冷え」と呼んでいるのです。
ライラックの花の季節に
「リラ冷え」という言葉に含まれる「リラ」は、
一見なじみのない言葉かもしれませんが、
実は「ライラック」という花の愛称です。
ライラックは北海道を象徴する花であり、
特に札幌市においては市の花としても知られています。
ライラックは、その強い甘い香りを放つ花を咲かせる樹木で、
開花時期は主に5月中旬から下旬にかけてです。
この時期は、北海道で気温が一時的に下がることが多いため、
リラ冷えとライラックの開花時期が重なることがあります。
ただし、ライラックの開花と気温の低下は直接的な関連はありません。
それでも、この現象を花に喩えることで、
北海道特有の風情を感じさせる表現となっています。
*ちなみに、ライラックには青紫色だけでなく、
ピンクや白色の花もあります。
リラ冷えの語源について
小説「リラ冷えの街」
「リラ冷え」という言葉が一般的になったのは、
昭和後期のことです。この言葉が広く知られるようになった背景には、
ある有名な作品が関係しています。
その作品とは、北海道を代表する作家・渡辺淳一氏による小説「リラ冷えの街」です。
この小説は新聞連載小説として最初に発表され、
1970年(昭和45年)にその第一回が掲載されました。
その後、1971年(昭和46年)に単行本として出版されました。
小説が札幌を舞台にしていたこともあり、
「リラ冷え」という表現は北海道内で急速に広まりました。
リラ冷えの言葉の背景と俳句への影響
一般的には、作家の渡辺淳一氏が「リラ冷え」という言葉を広めたと考えられていますが、
実はこの言葉は、彼が小説のタイトルに使う以前に、俳句の世界で既に使われていたのです。
渡辺淳一氏自身も、自身のエッセイで「リラ冷え」という言葉が収録された俳句を読んだことを述べています。この俳句は、榛谷美枝子(はんがいみえこ)さんによるもので、1960年(昭和35年)に彼女が自費出版した句集に含まれていました。
その後、1970年に辻井達一氏によって紹介された本を通じて、
渡辺淳一氏がこの言葉に触れたのです。
今日、「リラ冷え」という言葉は、
俳句の季語としても認識されています。
特に北海道の5月頃の気候を象徴する言葉として使われ、
本州とは異なる気候特性を表現しています。